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※本編の盛大なネタバレで構成されています。本文の引用までしてエンディングについてはっきりと触れます。苦情は一切受け付けません。『魔性の子』から最新刊まで、
『十二国記』シリーズの既刊全てを、
22日間かけて読み尽くすという非常に贅沢な事をしました。
そのせいか読後の余韻が非常に深く、
読み終えてから数日は何度も、
最終巻の好きな場面をパラパラと読み返していました。
読み終えた達成感とも脱力感とも違う、
なんというか、やっと呼吸が出来た、という感じの、
深い余韻の中にしばらく居ました。
言わずもがな。
『黄昏の岸 暁の天』から続く泰麒の話です。
何をどう考えても絶望感しかなく、
かなり覚悟して読み始めたのですが、
期待通りというか、その覚悟が裏切られる事はなく。
ただ予想外だった事が1つ。
まさかの「ジャンル:ミステリー」だという事実。
驍宗様の身柄を巡るミステリーを、
読者は李斎の視点で追っていく事になるのですが、
その事実に気付いてからしばらく、
予想外すぎて上手く飲み込めませんでした。
『十二国記』では今までなかった手法に戸惑う事しきり。
推理物を読む気分ではないのだが? みたいな。
上下巻の場合、上巻がひたすらに暗く重く、
それを伏線に下巻で一気に救われるという構成が多いのですが、
全四巻ともなるとその構成もどうなるかと思っていたら、
希望がちらっと見えたのが三巻の終盤。
長かった……
そして四巻でそのまま上向くかと思いきや、
今まで以上の絶望に一旦落とされるという仕打ち。
名前のない人はもちろん、
名前のある人たちもボロボロと亡くなっていき、
あまりの死者の数にちょっとめげそうになりました。
特に鄷都と飛燕の死が辛かった。
今でもちょっと引きずっています。
辛いなー。辛いなー。
一応、最後にはそれなりに、
祝福のあるエンディングが用意されているだろうという、
なけなしの希望を抱きながら読むんですが。
しかしその過程でどれだけの犠牲が出るのかと。
絶対に死なないであろう登場人物が泰麒と驍宗様だけで、
今回、もう1人の主人公であった李斎でさえ、
どこかで死んでしまうのではないかと戦々恐々でした。
本当に生きてて良かった。。。
『黄昏の岸 暁の天』の記事の時に、
驍宗様の事があまり好きではないと書いたのですが、
戻っていらした驍宗様は好きです。
好きですっていうか、
ああやっぱりこの人が王なんだ、と。
物凄く腑に落ちた気がしました。
確かに、驍宗様が戴国の王であって、それ以外あり得ない。
そんな為人を感じたせいか、
気付けば読み返しているのは驍宗様のいる場面ばかり。
驍宗様が何年も行方不明で政から離れているのに、
なんで「失道」にならないのか、というのが疑問だったのですが。
本人に政を行う意志があって、
出来る限り実際に行っていた事で納得。
逆に言えば、驍宗様が早い段階で諦めていれば、
失道で泰麒共々死亡か、驍宗様が死亡して、
新しい王と麒麟が誕生していたかも知れないと思うと、
どちらが良かったのかは分かりませんが。
でも驍宗様は徹頭徹尾「戴国の王」であろうとする人なのだなー、と。
似ている似ていると評されている阿選と驍宗様ですが、
芯に持っている価値基準が全く違ったように思います。
きっと阿選が王に選ばれていたら驍宗様は戴国を出て行くし、
残された阿選は結局驍宗様の影を見続けたのではないかと。
驍宗様と比べられる事が嫌だったけど、
驍宗様と比べないと自分の価値が認識出来ないというか……
阿選と驍宗様が同時に昇山していたら、
選ばれたのは阿選だったかも知れないという琅燦の言葉は、
可能性としては有りだと思いますが、
実際にはやはり驍宗様が選ばれたんじゃないかと思います。
琅燦の立場は結局あまり明らかにされませんでした。
阿選との遣り取りから垣間見えた印象では、
マッドサイエンティストだったのですが、
それだけではないようで。
玄管として、耶利の主公として、は、
まず同一人物と見るか判断の分かれるところのようですが、
個人的には他に該当人物がおらず泰麒が示唆している以上、
同一人物と見て間違いはないと思っています。
黄朱であった琅燦が国を憂いて民を想い、
泰麒と思うところは同じだと明言するのは、
確かにちょっと違和感があります。
しかし驍宗様を主公として崇敬している事を考えると、
それに見合うだけの価値観を驍宗様と共有しているはずなので、
立場としてはズレてはいないように思います。
玄管が朱旌を通じて連絡をとったのも、
黄朱である耶利を泰麒に送り込んだ事も、
琅燦が黄朱だった事に通じているのだと思うのですが。
じゃあ何故に阿選の背中を押したのか?
ここが最大の謎です。
いづれ阿選が裏切ると思っていたのであれば、
自分の利害が一致するタイミングで背中を押して、
敢えて失敗まで見届けるというのはある……のかも?
個人的には今年発売予定の短編集に、
琅燦を主役とした短編が入る事を想像しますが、
小野先生がそう簡単にネタバラシをしてくれるでしょうか。
泰麒の話なのに泰麒について書いてませんでしたね。
さて。
ここに来てまさか『魔性の子』がただの過去としてではなく、
伏線として回収されるとは思ってもみませんでした。
泰麒が阿選に誓約をする場面では、
心の底から『魔性の子』から、
続けて読み返していて良かったと思ったものです。
そして『魔性の子』があったからこそ、
今の泰麒がいて、麒麟としてはあり得ない行動を可能にして、
最後の決意を固める理由にもなっている。
他の麒麟では絶対にあり得ない物語を、
膨大な伏線を用意する事によって泰麒を作り上げて、
小野先生はここを目指して書いていたのかと。
頭の中どうなっているんでしょう。
ちょっと怖い。
驍宗様を想ってなけなしの食料を川に流す親子。
必死に抵抗した結果、
悲劇を引き寄せてしまった小さな村の人達。
姿が消えてしまった巌趙の行方は……
何しろ四巻にも渡る大長編です。
大量に張り巡らされた伏線がどう回収されて、
なにが謎のまま残っていて、誰が生きて、誰が死んで。
書きたい事は山ほどあってキリがないのですが。
もう少しだけ。
> 「引き受けた。諸国が支援する。──存分にやれ」
この場面だけ何回も読み返すほど、
延王の言葉は強く、本当に安定の安心感があります。
貧乏くじばかり引かされる苦労人ですが、
それだけみんなに頼られているという事ですね。
しかし相変わらず妖魔が跋扈する危険な土地だというのに、
2人揃って出掛けてくる延王と延麒。
フットワークが軽いの一言で済ませていいんでしょうか(笑)。
そして物語はエンディングへ。
園糸の親子から始まったこの長い物語は、
園糸の親子の場面に戻ります。
分かっている。分かっているんです。
小野先生の手法がそういう構成である事は。
しかし、読みたいのは一般人代表である園糸ではなく、
主要人物の皆様がどうなったか!
その期待は最後のただ一文に集約されます。
> 十月、上、鴻基において阿選を討つ。九州を平らげて暦を改めるに明幟とす。
驍宗様と阿選の対決も、阿選の最期も、
やっぱり書いてはくれないのね!
分かってた。小野先生のやり口は分かってたけど。
読みたいのはそこだ!!!
という気持ちが、どうしてもちょっと残ります。
『月の影 影の海』の時からこうなので、
本当に最初から分かっていた事ではあるのですが……
新刊の発売当初に、
今年発刊予定の短編集に収録予定の話を、
先行して一話読めるキャンペーンというのがあったのですが。
『丕緒の鳥』のような事もあるので応募しませんでした。
そもそもが新刊自体を「いつ読むんだ?」状態だったので、
読む頃には短編集も出ているだろう、と。
お陰様で先に読み終えてしまった訳ですが。
今回の長編がシリーズ最終巻だと見る向きもあるようですが、
まだ描かれていない物語が大量にあるので。
こんな所で終わられても困るんですが如何でしょう?
戴国はやっとこれから始まるところだし。
柳国は傾いたままだし。
巧国は王と麒麟が亡くなったばかりだし。
芳国は王が不在な上に麒麟がまた胎果になっちゃったし。
舜国に至っては登場すらしないし。
陽子もまだこれからだし。
楽俊は大学卒業して慶国に就職して欲しいし。
今の泰麒と驍宗様の幸せな場面も読みたいのです。
小野先生には伏線張りまくった責任を取って、
是非とも頑張って頂きたいものです。
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